| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-313 (Poster presentation)
植物集団の遺伝的組成は、人間活動の影響を強く受ける。例えば、宅地造成等の開発は、残存緑地の環境を変化させ、種間交雑を引き起こす可能性がある。近縁種や園芸品種の植栽はこのプロセスを加速させるだろう。日本のサクラ属は、多様な園芸品種の作出と広範な利用によって特徴付けられ、既往研究では在来種との種間交雑も報告されている。これらの点に着目し、本研究では、関東地方西部の二次林に生育するヤマザクラを対象として、網羅的なサンプリングとマイクロサテライト遺伝分析を行った。同時に、ヤマザクラの近縁種であり、様々な園芸品種の原種として知られるオオシマザクラ、エドヒガン、カンヒザクラについてもサンプリングと遺伝分析を実施した。計694サンプル、6遺伝子座の遺伝子型を用いてSTRUCTURE解析を行った結果、4つのクラスターA、B、C、Dが認められ、クラスターBはオオシマザクラ、クラスターCはエドヒガン、クラスターDはカンヒザクラと対応していた。ヤマザクラはクラスターAで特徴付けられるものの、クラスターBを様々な割合で含んでおり、南方ほどクラスターBの割合が高くなる傾向にあった。対象地域の中央に位置する多摩丘陵では、クラスターAとクラスターBの混合個体が多数生育していた。これらの結果は、(1)エドヒガン、カンヒザクラ、両者から作出された園芸品種とヤマザクラとの種間交雑は生じていないこと、(2)オオシマザクラとヤマザクラの遺伝的差異は小さく、(3)ヤマザクラ地域集団はオオシマザクラの遺伝的クラスターを様々な割合で含んでいること、を示している。しかし、ヤマザクラとオオシマザクラの遺伝的混合に人為的な攪乱が作用しているのかどうかは不明であり、更なる調査が必要である。