| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-317 (Poster presentation)

ロードキル記録を用いた中大型哺乳類の日本全国の密度指標

*立脇隆文, 小池文人(横国大・環境情報)

野生動物の保全管理には個体密度の分布の把握が必用であるが,国家のような広域スケールにおける密度分布を継続的にモニタリングするのは難しい.道路上での車両と野生動物の衝突によって生じるロードキルは日々収集されるため,この記録を用いて広域の密度分布を予測できる可能性がある.そこで本研究は,アンケート調査によって日本の市区町村のロードキル記録を収集し,哺乳類の総観スケール(1000kmを超える空間スケール)の密度分布図を作成した.

日本の主要4島にある650(39.6%)の市区町村に対しアンケート調査を実施し,ロードキルの年間収集数や収集範囲などの調査背景についての回答を得た.環境要因や環境で予測できない地方要因(狩猟などによる地域絶滅や外来種の移入のための回帰係数)から動物の密度指標を予測する統計モデルを構築した.この密度指標モデルを交通の強度や調査誤差を考慮してロードキル収集数に当てはめることで,パラメータを推定した.

計9種の哺乳類について全国的な密度分布の予測地図を作成した.多くの動物種にとって森林率や気温が重要な環境要因となった.ハクビシンのような外来種や過去に東北地方などで地域絶滅したニホンジカの分布も予測できた.ニホンジカ,イノシシ,タヌキ,アカギツネ4種のうちアカギツネを除く3種で,作成した密度指標地図は環境省の在/不在地図をよく説明した(AUC > 0.7).アカギツネは日本全国に広く分布するが南部の太平洋側地域は低密度であったためAUCは低かったが,逆に密度地図の重要性が示唆された.

本研究の結果は,市区町村によって集められたロードキル記録は広域の密度指標地図を得るのに有用であることを示唆しており,ロードキル記録の蓄積体制が整えば,国家のような広域スケールで多くの動物種のモニタリングが可能になるだろう.


日本生態学会