| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-324 (Poster presentation)
淡水魚のヌマムツCandidia sieboldii(コイ科)は,従来カワムツA型として扱われてきたが,2003年に別種とされた.本種は生息環境の悪化により個体群が減少しており,10府県でレッドデータ種とされている.本研究では保全対策の検討に必要な知見を得るため,大阪府堺市を流れる石津川水系の個体群について遺伝解析による調査を行った.
標本は石津川水系の4支流にあたる妙見川,法道寺川,明正川,和田川で採集した.ミトコンドリアDNAはそれぞれ22,20,14,13個体のcyt b領域の一部(1,152 bp)を決定し,マイクロサテライトDNAは22,20,18,12個体の6遺伝子座を対象に解析を行った.
ミトコンドリアDNAの解析では,和田川から地点に固有な1ハプロタイプ,他の3支流からはそれぞれ2ハプロタイプが確認された.2地点間の遺伝的な分化の程度を表すPairwise Fstは地点間の河道距離が大きい和田川と他の3地点で高く,妙見川と明正川で低かった.マイクロサテライトDNAの解析では,遺伝的多様性の指標となるヘテロ接合度を推定したところ観察値が0.28~0.39,期待値が0.22~0.44となり,法道寺川と和田川で低い傾向がみられた.Fstは和田川と他の3地点で高く,妙見川と法道寺川で低かった.また,両解析ともにFstと地点間の河道距離の間に相関は認められなかった.これらの結果から,石津川水系において和田川は独立性が高く,他の3支流との交流頻度は極めて低いことが示された.また,3支流の遺伝構造は単純ではなく,過去には現在と異なる合流地点が存在した可能性も考えられた.なお,本研究では同地点で採集した近縁種のカワムツC. temminckiiについても遺伝解析を行った.遺伝構造や多様性に関して両種の比較も交えながら考察する.