| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-342 (Poster presentation)
離島のような島嶼部では、その地史的特徴から一次淡水魚が少ないことが知られており、河川に生息する魚類や大型甲殻類は、海と河川を行き来する回遊性生物が優占する。そのため、河川横断工作物によって遡上や降河が阻害された場合、その河川生態系への影響は非常に大きくなると予測される。本研究は、島嶼部での河川生態系の保全に貢献するために、奄美大島において河川横断工作物の設置状況の異なる3河川の下流〜上流にかけて水生生物相を調査し、水生生物種ごとに、遡上の実態を把握することを目的とした。
奄美大島東岸に河口をもつ3河川(役勝川、住用川、川内川)において、各河川9 地点ずつ、計27地点において電気ショッカーを用いた採集調査を行い、計27種の水生生物を採集した。遡上の障害となるような河川横断工作物のない役勝川においては、下流域から上流域にかけて広く生息するリュウキュウアユやナガノゴリをはじめ、上流域で12種の回遊性生物が確認できたのに対し、大規模な滝もしくは河川横断工作物のある住用川、川内川の上流域において確認された回遊性生物は、オオウナギやヒラテテナガエビといった遡上能力が著しく高いと考えられる4–6種にとどまった。また、これら2河川では回遊性生物の比較的少ない滝もしくは横断工作物の上流側でのみ、キバラヨシノボリとリュウキュウサワガニの2種の非回遊性生物が確認された。回遊性生物の遡上能力に応じて、河川横断工作物が河川生物相にバイアスを与えている可能性が示唆され、特に島嶼部においては上流域の生物多様性を大幅に減少させる恐れがあるため、河川生態系の保全のために横断工作物の遡上のしやすさの評価が必要だと考えられた。