| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-353 (Poster presentation)
野生種の「木の実」は毎年生産される自然の恵みである.淡路島でも様々な木の実の利用があったと考えられるが,これまでにまとまった記録はなく,また,近年の生活様式の変化により,木の実文化は衰退している可能性がある.このため淡路島の木の実文化が消失する前にその収集と記録をおこなう必要がある.本研究では淡路島で利用されていた木の実の種類,方言名,用途,継承経路,および近年の木の実文化衰退の実態を明らかにすることを目的に調査をおこなった.
調査はインタビューによる質的調査と,質問紙による量的調査の2項目をおこなった.インタビューの対象は,高齢者を中心とし,淡路島で育った37人とした.インタビューでは植物の写真や図鑑,実物を提示し種の特定をおこなった.量的調査の対象は,淡路島で育った228人とし,質問紙では回答者の属性(生年・育った場所と期間),よく使われる8種の木の実(キイチゴ類,シイ,ヤマモモ等)の利用経験の有無と利用時期,継承経路(誰に教わったか)を聞いた.
調査の結果,淡路島で利用されていた木の実48種を特定した.また,方言名は,既存の文献に記載されていないものを約20個確認した.方言名は同種でも実の大きさで呼び分けるもの(ヤマモモ),雄雌で呼び分けるもの(イヌビワ)があった.木の実の用途は食用が全体の約70%を占め,次いで遊びの道具(竹でっぽうの玉にする等)としての利用が多かった.利用されていた木の実の種類や方言名は,島内で地域間に差があった.継承経路は「友だち・上級生」が1949年以前生まれでは約50%を占めたが,1990年以降は約10%まで減少し,若い世代では「先生」が登場するなど多様化してきた.利用種数は若い世代になるに従い減少しており,淡路島における木の実文化の衰退が明らかとなった.