| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-368 (Poster presentation)
大型有蹄類の過採食は、植物種の絶滅や森林更新の阻害を引き起す。有蹄類の採食による植物の種多様性の減少を防ぐ上で、植生保護柵の設置は有効である。しかし、地域スケールで植物種の絶滅を回避するために効率的な植生保護柵の設置場所を選定する基準は検討されていない。植物の分布と有蹄類の採食場所の重複は、植物が有蹄類に遭遇する可能性を高め、地域スケールで植物の被食の可能性を高めると考えられる。そこで有蹄類の採食から優先的に植生を保護すべき場所を地域スケールでの視点で抽出する上で、従来の食べられやすさの指標である嗜好性と伴に、有蹄類との遭遇しやすさも考慮することの有効性を検討した。
ニホンジカとニホンカモシカが低密度に分布する群馬県みなかみ町において、30林班に3m×3mの方形区を各5箇所設置し、生育する高さ25cmから200cmの維管束植物の全シュートの種名と食痕の有無を記録した。そして、食痕の有無を植物種の食べられやすさ(嗜好性)と出現方形区における採食されやすさ(有蹄類の採食場所の選択性)で説明するモデルのパラメータを推定した。遭遇しやすさは、各種のシュートが選択性の高い場所に集中して出現した程度で評価した。遭遇しやすさは、出現種211種のうち、39種が有意に高く、42種が有意低いと評価されたことから、植物の食べられやすさは嗜好性だけでなく遭遇しやすさが関係することを示した。また、シカ柵を設置する場所を選択する上で、嗜好性と遭遇しやすさを指標とすることで、嗜好性のみを指標とした場合と比較して、20年間でおよそ2倍の種の消失を防ぐ効率的な保全ができることをシミュレーションにて評価した。これらのことから、嗜好性および遭遇可能性に基づくシカ柵の優先設置区域を選定する枠組みを提案する。