| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-369 (Poster presentation)
近年、北半球を中心に大型草食獣が過増加傾向にあり、それに伴う森林生態系の改変・劣化が懸念されている。これまで、大型草食動物の過増加が生態系に及ぼす影響については北米や欧州を中心に多くの研究がなされてきたが、それらの長期的な影響については不明な点が多い。そこで、本研究では長期間シカの高密度化状態が続いてきた北海道洞爺湖中島および極めてシカ密度が低い洞爺湖岸において、生態的特性の異なる甲虫類(糞虫類・オサムシ類・シデムシ類)を対象に、長期的なシカ過増加に対する反応を比較した。
昆虫類の採取は2012年(中島)および2013年(湖岸)に、ピットフォールトラップを用いて実施した。本研究ではWilcoxonの順位和検定を用いて、採取された昆虫類の種数・個体数・多様度指数の調査地間の違いを比較した。解析の結果、糞虫類・シデムシ類は中島において個体数および種数が多かった。一方、オサムシ類の個体数および種数は湖岸において多く、特に大型種でこの傾向が強かった。また、非計量多次元尺度構成法および指標種分析の結果、糞虫類・オサムシ類・シデムシ類の群集構造は調査地間で大きく異なっていた。中島の群集はマエカドコエンマコガネやオオヒラタシデムシといった糞虫類・シデムシ類を指標種とする一方、湖岸の群集はキタクロナガオサムシなどのオサムシ類によって特徴づけられた。以上の結果から、洞爺湖中島における長期的なシカの過増加は、昆虫類群集に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。具体的には、林床を主な生息環境としているオサムシ類に対しては負の影響を、哺乳類の排泄物・遺体を食物資源としている糞虫類およびシデムシ類に対しては正の影響を及ぼすことが示唆された。