| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-379 (Poster presentation)

世界自然遺産白神山地における自然的価値と文化的価値の統合

*外崎杏由子(筑波大・人総),吉田正人(筑波大・人総)

自然遺産の価値は、自然的価値だけに限らず、里山、マタギという伝統的な狩猟文化、信仰など文化的価値も持つ。しかし世界自然遺産の登録プロセスでは、自然遺産の四つの登録基準(Criteria)に沿って顕著で普遍的な価値を有するかどうかが審査され、自然遺産の評価機関である国際自然保護連合(IUCN)は自然的価値のみを評価し、文化的価値については評価しない。よって世界自然遺産では自然的価値と文化的価値が分断され、文化的価値評価が欠けることがある。

白神山地では、世界遺産登録によって世界遺産を中心とした価値に視点が集中し、世界遺産として認められた価値ばかりが注目された。理由として、青秋林道を中止にしたのは地域住民の林道に反対を表明する異議意見書の力であったのに対し、世界遺産登録は政府主導で行われ、市町村や地域住民が関与しなかったこと、1992年の世界遺産委員会において文化的景観を文化遺産のカテゴリーに含めることが決定し、里山的な自然が自然遺産から文化遺産に移され、1993年に登録された白神山地では里山的側面が価値評価に含められなかったことが考えられた。

そこで本研究では欠けている文化的価値を含めた評価を行うため、青森県と秋田県の主力新聞から白神山地に付随する多数キーワードの抽出を行った。これによって、白神山地の価値を構成する主要要素を網羅し、現在見落とされている価値の発見につながる。また、その要素がどこの位置で現れているのかを同時にマッピングし、白神山地が有する価値が世界遺産地域内だけではなく、世界遺産地域の周辺まで広く分布していることを明らかにした。したがって、白神山地の文化的価値を現在の自然的価値評価に統合するためには、世界遺産地域の周辺を白神山地世界遺産地域と連続させたゾーニングと管理が必要になると考えられる。


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