| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-380 (Poster presentation)
トキソプラズマはヒトに感染した際、流産や胎児の先天性障害などの重篤な症状を引き起こす原虫で、終宿主であるネコ科動物が排泄する環境中のオーシストや感染動物の組織シストが感染源となる。トキソプラズマの中間宿主であるアライグマは、河川周辺や森林など様々な景観を利用するため、アライグマの有病率が環境中のトキソプラズマオーシストの汚染状態を表す良い指標となると考えられている。本研究では、畜産地帯である北海道十勝地域の農村部に生息するアライグマにおけるトキソプラズマの感染状況を調査し、生息地の景観構造との関連性を評価することにより、環境中のトキソプラズマ汚染に影響する景観要因を検討した。
2010〜2014年に本調査地域で捕獲されたアライグマの9.4%(10/107)からトキソプラズマ抗体が検出された。一般化線形混合モデルによる分析を行った結果、河川の多く分布する景観に生息するアライグマのトキソプラズマ抗体陽性率が高くなる傾向が認められた(OR=14.67, 95% CI=2.64-81.58)。このような結果に至った理由として、河川環境はアライグマだけでなくトキソプラズマの終宿主であるネコも頻繁に利用する環境であるとともに、人によって定期的にネコの糞が除去されることがないため、アライグマが感染性オーシストに暴露されやすいためと推察された。環境中のオーシストはヒトにとっての感染源ともなるため、本地域において河川の多く分布する景観はヒトにとってもトキソプラズマ感染リスクの高い景観であると考えられる。