| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-171 (Poster presentation)
高木限界(一定以上の高さの樹木が生育できる限界高度)は気候変動に敏感に反応するといわれており、気候変動に伴い高木限界は上昇すると予想される。高木限界に関する多くの先行研究は個別の山における上昇要因を調べており、複数の山における上昇量と将来予測に関する報告はほとんどない。日本の高山帯は世界的にも低標高で比較的温暖な場所に分布する希な存在で、高木限界が上昇すると大きな影響を受ける。気候変動影響を評価し、適応策として高山帯の保全を考える基礎情報を得るために、本研究では1.高木限界の位置を決める要因2.将来気候における高木限界の位置(その上に位置する高山帯の分布)3.高木限界の上昇に影響する要因を解析した。
北海道から日本アルプスまでの26山で約30年前と最近の空中写真を立体視し、最高標高にある樹高5m以上の木を繋いだ線を高木限界として、その位置と、過去から最近にかけての上昇速度を応答変数として計測した。気候(気温・降水・積雪)と地形(斜面方位・傾斜角・凹凸度)データを説明変数とし、random forest(機械学習)でモデリングした結果、高木限界の位置と変化速度の両方に対して雪と地形が大きく影響することがわかった。過去(1978-1982年)と最近(2008-2012年)の気候変化量から考えると、将来だけでなく、現在気候下でも高山帯の多くが消失していておかしくないと予測されたが、実際にはそれほど上昇しておらず、生物気候エンベロープモデルによる高木限界予測は過大推定になることが示唆された。生物気候エンベロープモデルが樹木の更新といった動的プロセスを考慮できていないことは重要な課題で、今後取り組んでいく必要がある。複雑な微地形に対応した空間解像度も重要で、さらに高解像度の気候データの開発と提供が臨まれる。