| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-185 (Poster presentation)
近年、人間活動などにより送粉者の種多様性の減少が進行し、それに伴い口吻長や体サイズなどの形質の多様性(機能的多様性)の減少が報告されている。送粉者や植物の形質は送粉者―植物の相互関係を決定づける重要な要因のひとつであり、長花筒植物は長口吻送粉者に依存することなどが知られている。そのため特定の送粉者機能群の消失は、それらの機能群に依存する植物の絶滅を引き起こすなど植物群集に負の影響を与えると考えられてきた。一方で、特定の形質をもつ送粉者機能群が減少すると、他の機能群の種が空いたニッチを埋める可能性があることがわかってきた。この補償が十分であれば、植物群集への影響はこれまで予測されてきたより小さいと考えられる。しかし、正当ではない送粉者機能群の訪花は送粉者―植物間の形態のミスマッチを引き起こし、繁殖成功を低下させる可能性がある。そこで、本研究では本州と伊豆諸島を対象に低い送粉者の機能的多様性が形態のミスマッチを引き起こすのか検証を行った。
本研究では本州3地点(茨城県ひたち市、ひたちなか市、千葉県館山市)と海洋島5地点(伊豆大島、新島、神津島、三宅島、八丈島)の海浜植物群集を調査地として設定し、開花植物に訪花した昆虫の種名・個体数,訪花した植物種の記録を行った。同時に送粉者の口吻長、開花植物の花筒長を計測し、送粉者の機能的多様性の低い系で、訪花における形態のミスマッチの程度(口吻長と花筒長の差)が増加するのか解析を行った。
その結果、送粉者機能的多様性の高い場所では形態が一致する訪花が多かったのに対し、低い場所では形態のミスマッチが増加することが明らかになった。この結果は、機能的多様性の減少によるニッチシフトは訪花個体数の補償を行うが、植物の繁殖を十分に補償するものではない可能性を示唆するものであった。