| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-190 (Poster presentation)
奈良県三輪山麓の大神神社では、大宝元年以来1300年以上、無病息災を祈願する祭りが執り行われてきた。ゆり祭りとして親しまれる三枝祭では、ササユリLilium japonicumが御神花として奉献され、参拝者にも配られる。ササユリは、西日本に自生する普通種だが、里山環境が損なわれるにつれてその数を減らしている。本研究では、ササユリ保全の一環として受粉戦略解明の為に開花後の花香放出量の推移を調査しつつ、花香や植物体構成成分による抗菌効果の検証もおこなった。花香放出量に対して開花後経過日数と時刻、各日の天候が及ぼす影響を3要因分散分析で検証したところ、花香放出は開花初日より2日目以降に強まる傾向があり、日没後に増加すること、雨天時は放出が抑制されることが判明した。観察時にスズメガの訪花が見られたことから、ガ類等の受粉媒介者の活動に合わせた効率的な花香放出であると考えられる。また、花香の抗菌作用をクロコウジカビAspergillus nigerやクロカワカビCladosporium cladosporioidesで検証したが、顕著な効果はなかった。しかし、ササユリの葉はそれらの胞子発芽を強く抑制し、その効果はヘキサン抽出物でも確認された。薄層クロマトグラフ法によって異なる化学的性状を示す抗菌物質(群)が少なくとも2種以上含まれることも判明した。現在活性物質の同定に向けた分析を進めている。これらの抗菌成分は、ヘキサン可溶であることから、ササユリ葉の表皮ワックス中に含まれるものと考えられる。しかし、ヒメユリL. concolorやヤマユリL. auratumなど他種ユリの葉には抗菌作用が認められなかった。大宝の時代、ササユリが疫病除けの御神花として選ばれた一因として、その葉の示す抗菌性が貢献した可能性はある。