| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-192 (Poster presentation)
日本産ブナ科22種のうち12種は、開花の翌年の秋に堅果を成熟させる。この性質を2年成と呼ぶ。これまでの研究で、2年成カシ類(コナラ属アカガシ亜属)では隔年結果(2年周期の結実)が顕著であることを明らかにしてきた。また、隔年結果は2年成ブナ科全種に共通でなく、マテバシイ属やシイ属では報告されていない。
堅果を利用する昆虫の一種、ハイイロチョッキリは、堅果への産卵後に枝ごと切り落とすという特異な行動をもつ。この行動は、2年成の樹木にとって、2年分の繁殖器官の損失に繋がりかねず、繁殖成功に大きく影響すると考えられる。本研究では、2年成ブナ科樹木の隔年結果にチョッキリの枝切り行動が関与しているのではないかと考え、まず両者の対応関係を解明することを目的とした。
オキナワウラジロガシとハナガガシを除く10種計521個体を対象に、チョッキリによる枝切りの有無、切り落とされた枝数、切り落とされた枝の形態(新梢の有無、新梢上の開花の有無)を記録した。
コナラ属では全種でチョッキリによる枝切りがみられ、特にアカガシ亜属では被害個体の割合が極めて高かった。一方、マテバシイ属では全く枝切りはみられず、シイ属でもほぼ全個体で被害はなかった。さらに、アカガシ亜属では切り落とされた枝のほとんどが新梢を伸ばしていなかったのに対し、切り落としのなかったマテバシイ属とシイ属で樹冠の繁殖枝を観察したところ、そのほとんどが新梢を伸ばし、かつ新梢の多くで開花がみられた。
以上のようなハイイロチョッキリの枝切り行動と2年成カシ類の隔年結果(隔年の新梢伸長)の対応関係は、隔年結果がハイイロチョッキリの枝切り行動に対する2年成カシ類の適応の結果である可能性を示唆している。