| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-202 (Poster presentation)
マングローブとは、熱帯・亜熱帯域の潮間帯に生息する耐塩性の種子植物の総称であり、その群落をマングローブ林と呼ぶ。マングローブ林ではベントスが粉砕した植物の破砕片が起源である、デトライタス食物連鎖が形成されると考えられる。また、沖合のサンゴ礁由来の酸素や外洋性プランクトンが供給され、マングローブ林に生息する生物に利用されている。鹿児島市喜入町にあるマングローブ林はマングローブ群生の北限とされ、温帯域に属するため、熱帯・亜熱帯域のマングローブ林とは異なる食物網構造をもつ可能性がある。生息する底生生物を奄美大島のマングローブ林と比較したところ、群集組成が大きく異なっていた。そこで本研究では、生産者・一次消費者・上位捕食者と思われる各種について、炭素・窒素・硫黄の安定同位体比を測定し、北限のマングローブ林における食物網構造を明らかにすることを目的とした。
調査地は、国の特別天然記念物に指定されているリュウキュウコガイ自生地より数キロ北に位置するメヒルギ群落である。マングローブの落葉、樹皮上の付着海藻、底生海藻、落葉、植物プランクトン、底質上の有機物といった一次生産とその周辺にいる消費者を採集し、安定同位体比を計測した。移動性の高い大型甲殻類については、調査地内の落葉上や樹冠下で採集した。
マングローブの炭素安定同位体比は消費者の値と大きく離れており、この食物連鎖を支える生産者としては機能していない可能性がある。海藻類は季節や種による変異が大きく、植物プランクトンや底質上の有機物も含めて、多くの一次消費者が様々な餌を採餌している可能性が示唆された。また、大型のカニ類は、上位捕食者であると同時に落葉の破砕者として機能していると考えられた。