| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-231 (Poster presentation)

琵琶湖内にみられるコイの体形の地域間変異

渥美圭佑*,馬渕浩司,瀬能宏,井上広滋

[背景] 魚類の体型は、同種内でも河川と湖沼の集団間で違う例が報告されており、とくに遊泳能力と関連した生態的な違いを反映したものと考えられている。琵琶湖のコイでは、生息深度による体型の違いが約100年前に指摘されており、水深約20 m以深には「野生型」といわれる魚雷型の細長い体型のコイが、以浅には体高の高い「飼育型」のコイが生息するとされていた。本研究では、飼育型コイの大量導入を経た現在でもそのような傾向が残っているのか、魚体標本にもとづいて検証した。

[方法] 琵琶湖内の各地から採集されたコイ157個体(神奈川県立生命の星・地球博物博に所蔵)の標本写真を用い、ランドマーク法により体型の変異を解析した。魚体に9か所の標識点を設定し、体サイズ補正を行った上で主成分分析を行った。得られた第一主成分(PC1)について、地域間で有意な差があるかをSteel-Dwass法により検定した。

[結果・考察] PC1は体高と関連し、野生型個体では負の値を、飼育型個体では正の値を示した。PC1の値を琵琶湖の地域間(沖帯、北岸、西岸、南部、東岸)で比較したところ、沖帯・北岸では負の値を持つ個体が多い一方で、南部・東岸では正の値を持つものが多く、前者から得たサンプル群でのPC1の値は後者に比べて有意に低かった。つまり現在でも、深場には野生型が、浅場には飼育型が多いといえる。一般に、野生型のような魚雷型の体型は流体力学的に遊泳効率が高いといわれているので、このような個体は、深場の広大な水域での生活において有利なのかもしれない。一方、演者らの遺伝マーカーを用いた研究では、典型的な野生型は日本在来系統に、飼育型は大陸からの導入系統に対応することが判明しており、今回の結果は琵琶湖内での両系統の生息場所の違いを示唆している。


日本生態学会