| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-236 (Poster presentation)

温暖化による海藻のレンジシフトへの海流の輸送・障壁効果

*熊谷直喜, 山野博哉, GARCÍA MOLINOS, Jorge(国環研), 髙尾信太郎, 藤井賢彦, 山中康裕(北大・地環研)

温暖化影響に対応して生物種の分布が変化するならば、南限付近の衰退と北限付近の増大により、分布範囲は北方に平行移動する。しかし多くの種がこの仮定に反し、分布推移方向・速度は多様である。しかし先行研究による説明は、移動能力や地理的範囲のような生物的特徴、地域環境要因と関連付けた個別の議論や定性的解釈に留まっている。一方、海流は分布推移方向と逆流の場合に移動障壁となると考えられているが、海流は海洋生物全般の分布変化を促進・抑制するポテンシャルがある。本研究では、温暖化による水温変化と海流の複合作用に着目し、これを定量化した指数(agreement rate)を用いた解析、複合作用プロセスを組み込んだモデル(climate velocity trajectory)による予測を行った。解析・検証には国内沿岸域景観を構成する30種の大型褐藻の1950–2014年の分布推移データ(Kumagai et al. 投稿中)を使用した。

日本海と太平洋沿岸とでは、表面海水温の温度勾配と海流の方向が異なっており、日本海の多くでは一致したが(agreement rate:正)、太平洋では直行(0)から逆行が多かった(負)。これに対応し、海藻の分布中心は日本海では2種以外で北上したが、太平洋では半数が南下し推移速度も多様だった。次に、北限付近の分布拡大を2通りのClimate velocity trajectoryモデル(水温変化のみ、水温変化と海流の方向・速度の複合作用)で予測した結果、後者の予測力は前者より大きく向上した。一方、移動分散過程を伴わない南限付近の分布縮小では、両者の予測は同程度だった。以上の結果は、受動分散する種の温暖化に伴う分布推移が、水温変化と海流輸送の複合作用で統一的に説明しうることを示す。


日本生態学会