| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-240 (Poster presentation)

Polypodシダ類における有性生殖種と無配生殖種の多様性

*田中崇行(信州大), Li-Yaung Kuo (National Taiwan Univ.), Dirk Nikolaus Karger (Univ. Zurich)

生物多様性の形成プロセスを理解するため、近年系統や形質情報を用いた系統的・機能的多様性が着目されている。植物では被子植物を中心に、環境傾度と葉形態・繁殖様式に関する機能的多様性の研究が生態的プロセスの理解を深めているが、被子植物同様に多様な形態と繁殖様式を持つシダ植物ではその理解は未だ乏しい。

環境傾度に沿った繁殖様式に関して、無性的な繁殖戦略の種の割合は高標高で増加することが一般的である。しかし、我々はシダ植物の無配生殖 (無性生殖の1つ) では逆の傾向であることを中部山岳域で明らかにした。そこで本研究では、①この傾向の一般性と②環境要因との関係を明らかにするため、北海道・長野・熊本・台湾で標高に沿ったシダ植物 (特にシダ植物の8割を占めるPolypodシダ類) の多様性を調査した (標高300 m毎20×20 mプロットを8個設置)。

無配生殖種の種数と割合は台湾と熊本で高く、北海道と長野では低い傾向であった。個体数で重みづけした無配生殖種の割合の標準化効果量は、台湾と熊本では標高に沿って減少する一方で、北海道と長野では増加した。北海道と長野の傾向は高標高域での無配生殖種ミヤマワラビの繁茂に起因すると考えらえた。無配生殖種は受精不要で胞子体形成ができるため乾燥環境に多いと予想したが、気温と乾燥の指標を含めた重回帰分析では気温との関連のみ示され、低温が無配生殖の制限要因となることが考えられた。また、無配生殖種数は有性生殖種数と相関し、一部無配生殖種は有性生殖種と交配することで遺伝的多様性を保持することから、無配生殖種の多様性は有性生殖種の多様性により維持されている可能性も示唆された。


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