| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-242 (Poster presentation)

霞ケ浦の環境DNAから検出される生物多様性にフィルター濾過が与える影響

*今藤夏子,中川惠,松崎慎一郎(国立環境研・生物セ),伊藤洋(総研大)

湖沼生態系の変化を検出する上で、生物の長期モニタリングは欠かせない。しかし、形態同定に基づく計測データの取得には、各生物の分類の専門家の確保が必須であり、専門家であっても時間や労力を要する。また、分類の混乱などによりデータの客観性が保てない場合もあり、長期間にわたって同質のデータを取得することは難しい。一方、DNA塩基配列による生物同定、すなわちDNAバーコーディングは、客観性の高いデータを比較的小労力で得ることができる。近年、次世代シーケンサーによって湖沼の水中に含まれる微小生物や大型生物由来のDNA(環境DNA)の塩基配列を一度に検出することも可能となり、DNAバーコーディングと環境DNAを用いたモニタリング手法の確立が期待されている。

我々は、霞ケ浦における動物プランクトン、底生生物、魚類等のモニタリングを環境DNAによって行うため、湖水から環境DNAを捕捉するためのろ過フィルターとその濾過水から検出される生物の種類や多様性がどのように異なるかを比較した。2014年10月に霞ヶ浦で採集した湖水を、粒子保持能の異なるガラス繊維ろ紙3種で順に濾過し、フィルターと各段階のろ過水からDNAを抽出した。ミトコンドリア遺伝子COIをPCRによって増幅後、IonPGMを用いて塩基配列を取得した。得られた配列は、Claident(Tanabe 2012)を用いて解析し、相同性検索Blastnによって同定した生物名を比較した。また、同定できなかった配列も含む全塩基配列について配列多様性も比較した。その結果、上流のフィルターやろ過水ほど多くの生物種が検出され、配列多様性も高かった。また、フィルターとろ過水では異なる種や塩基配列が検出される傾向にあった。モニタリングに適用するためには、環境DNAを適切な手法を用いて取得する必要があることが示唆された。


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