| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-245 (Poster presentation)
東南アジアにおける植物種分布の現状把握と多様性評価を目的として、我々はカンボジア、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアの23地点に100m×5m調査区(1地点あたり1-20区)を設定し、出現するすべての維管束植物を記録した。本研究ではこの調査で得られた標本のうち、クスノキ科タブノキ属(Machilus)を対象に、形態・分布情報・DNA配列を総合した種識別を行った。クスノキ科は東南アジアの低地から山地まで広く分布しているが、開花・結実が毎年みられるとは限らず、分類学的研究が遅れている。このうちタブノキ属は、種間の形態的類似度が非常に高く、花や実がない状態では同定が非常に難しい属の一つである。
調査で得られたタブノキ属70サンプルについて形態・分布情報から種の暫定判別を行い、ITS領域の約700bpの配列を決定した。NCBIから得た既知種配列も加え、540bpを利用して近隣接合法を用い系統樹を作成した。その結果、形態的に同種と判断された種のサンプルは産地が違っても単系統であり、形態的に別種と判断された同じ産地の種は多くの場合、非単系統となった。この分子情報に加え、調査で得られた標本とハーバリウムのタイプ標本についての形態観察の結果、40種(新種26種、既知種14種)が葉・芽・茎の形態的特徴だけで識別できた。特にベトナムからは15種(新種12種、既知種3種)が得られた。本研究の結果は、花・果実をつけた標本にもとづくこれまでの分類学的研究において、東南アジア産樹木種の多様性が大幅に過小評価されていることを示唆する。