| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-247 (Poster presentation)

生物群集の固有値問題を解くことで説明する「食う-食われるもの」の間の相利

笠井 敦 (国立環境研)

相利とは、何らかの相互作用を通じて両種が共に利益を得る関係である。一方、被食-捕食相互作用において消費者は利益を獲得し被食者は損失を被るため、相利と被食-捕食相互作用とは相容れない概念にみえる。ところが、エライオソームやフードボディーを通じた植物とアリとの関係など、我々が相利に位置づける関係の中には被食-捕食相互作用そのものも多く含まれる(資源-サービス交換型相利)。この一見相容れない概念を正しく評価するには、相互作用(interaction)を「利害(ホンネ、interest)」関係と「作用(タテマエ、action)」関係とに整理し、「作用」により記述した群集行列に対応する感度行列と固有値、及び固有ベクトルを求めた後、「利害」についてこの感度行列や固有値、及び固有ベクトルを分類すればよい。植物-植食者2種-捕食者の環状被食-捕食相互作用系において固有値問題を解くと、資源-サービス交換型相利特有の条件である消費者密度効果の消失を組み込んだ場合、組み込んでいない場合と比べて局所的安定性はむしろ低下した。しかし、安定な場合において消費者密度効果の消失を組み込んだ場合の相利率は完全であるのに対し、組み込んでいない場合の率は大幅に減少した。さらに、系が不安定な場合、消費者密度効果の消失は相利を形成しない種(邪魔者)のみを排除する排他的構造を形成した。ちなみに、邪魔者種を除いた系では安定性は完全だが、相利関係は検出されず、作用の役割の理解が困難となった。すなわち、邪魔者種はたとえ不在であっても群集構造の形成に大きく寄与することを意味し、排他的構造が機能する群集構造を正しく評価するためには、邪魔者種を不在者効果として想定することが重要と考えられる。


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