| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-252 (Poster presentation)

中心回帰的な行動プロセスを組み込んだ標識再捕獲モデル

*深澤圭太(国立環境研究所), 東出大志(早稲田大・人間科学)

標識再捕獲モデルは、個体密度、出生死亡率、個体の移動速度の推定法として生態学・統計学において多くの研究がなされている。しかし、動物の移動速度を推定する標識再捕獲モデルの多くは動物の動きがブラウン運動に従うことを仮定しており、ホームレンジをもつ多くの動物には適用できないという問題があった。また、捕獲調査、カメラトラップやDNA標識などの多くの調査における観測プロセスは連続時間で記述できるものであるが、既存の手法のほとんどが離散時間を仮定している。そのため、離散化の際の時間解像度が推定結果に影響を与えたり、再捕獲までの時間間隔のばらつきが大きいデータではモデル推定自体が困難になったりするという問題があった。本研究ではそれらの問題を解決するために、ホームレンジを形成する行動プロセスを組み込んだ連続時間型の標識再捕獲モデルを開発した。移動のプロセスモデルとして2次元Ornstein-Uhlenbeck過程を仮定し、ホームレンジのサイズは個体群の平均的な移動速度と中心回帰の強度という2つのパラメータにより決まる。パラメータは周辺尤度最大化法により推定することができる。ツキノワグマを対象とした胸部斑紋の個体識別による標識再捕獲調査データにモデルを適用した結果、移動速度および中心回帰の強度はいずれもオスよりメスの方が大きいことが明らかとなった。ホームレンジの95%確率円の面積はオスで40.29km2, メスで28.03km2と推定された。人間と野生鳥獣の軋轢を解消するためのゾーニングにおいては、地域スケールでの対象動物の空間動態の理解が欠かせないが、標識再捕獲モデルによる行動パラメータ推定は比較的低コストで地域全体の傾向を把握できる点で有用であると考えられる。


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