| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-309 (Poster presentation)
配偶相手の変更は多くの分類群で知られている。「相対評価仮説」は、現在の配偶相手より質の高い相手と出会ったときに配偶相手の変更が起こると予想している。一方、横恋慕とは、すでに配偶相手のいる異性を自分の配偶相手にしようとする試みと定義できる。上記仮説に従えば、たとえ配偶相手のいるオスでも、すでに他のオスを配偶相手としている質の高いメスと出会ったとき、横恋慕するかもしれない。また、メスの質を相対評価する際に、メスの質に関する社会情報(他のオスが配偶相手としていることが、そのメスの質が高いという社会情報になる)が、横恋慕を起こしやすくするかもしれない。
甲殻類の多くの種で、オスはメスを交尾前ガードする。相対評価仮説から、ガード中のオスでも、より質の高いメスへと相手を変更することが予想されるが、過去の研究から、テナガホンヤドカリでは、予想より低い確率でしか変更が起こらないことが分かっている。しかし、ヤドカリのオスはメスを評価する際に、上述の社会情報を利用することが示唆されている。そこで本研究では、ガード中のオスが、(1)野外で他のオスにガードされていたメス、あるいは (2)他のガードペア、と出会ったときの行動を観察した。
その結果、(1)では、40例中3例でオスはメスを変更した。(2)では56例中15例で、ガード中の優位オスが劣位オスからメスを引き離した。しかし、配偶相手の変更は3例でしか起こらなかった。(1)の結果は、新たなメスと出会っても、オスはガード中のメスを重視することを示唆する。(2)の結果は、ガード中のオスは社会情報によって横恋慕すること、しかしほとんどの場合、結局は配偶相手の変更に至らないことを示唆する。優位オス以外のみんなにとって迷惑な話である。