| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-311 (Poster presentation)
不妊虫放飼事業では,捕獲した不妊虫と野生虫の割合を利用して防除効果をモニタリングしている.捕獲した不妊虫を野生虫と判別するには,安価で保存性が高く,大量の虫のマーキングが可能で効果判定も簡便な蛍光色素が広く用いられている.しかしながら,トラップで捕獲される野生オスは,その親世代で放飼した不妊オスによる防除効果を示すものであり,現状の体表の蛍光色素マーキングだけでは進行中の防除効果を直接的に示すことができない.より迅速に防除を進めるために防除効果を直接的に示すには,何らかの方法で不妊オスの精子(精液)が野生メスに取り込まれていることを示す必要がある.不妊系統の精子と野生系統の精子の遺伝的な差異の利用も手法の1つだが,現在沖縄県で不妊虫放飼法を利用して根絶防除事業が進められているイモゾウムシ(Euscepes postfasciatus)では,放飼する大量増殖系統と野外系統を判別する有効な遺伝的マーカーの開発が進んでおらず,分子生物学的手法による防除効果判定は不可能である.本研究では,昆虫のマーキング資材としても利用される微量元素ルビジウム(以下Rb)を人工飼料に添加してオス成虫に取り込ませ(Rb+オス),交尾でメスに移行したオスの精液に含まれるRbが既交尾メス体内から検出されるかを,微量元素の測定に用いられる誘導結合ブラズマ質量分析計(ICP-MS)を利用し調査した.その結果, Rb-オスと交尾したメス,未交尾メス,野生メスと比較して,Rb+オスと交尾したメス体内から差異の検出に十分な量のRbが検出された.この結果は,イモゾウムシは羽化後に摂取したRbが精液を通じてメスに移行し,不妊オスの交尾範囲を明らかにすることで,高精度な個体群密度推定が可能であることを示している.