| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-312 (Poster presentation)
多くのバッタ科昆虫では,雌にマウントした雄が,雌の体軸に対し左側または右側から腹部末端をアプローチさせて交尾が成立する。以下では,雄が雌の左側からアプローチして成立した場合を‘左向き’,その逆を‘右向き’の交尾と表現する。バッタ類では一般的に,各個体は左右両方の向きで交尾するとされている。しかし,これまでにコバネイナゴを対象として北海道旭川市および山形県天童市で実施した野外調査ではほぼ例外なく右向きでの交尾だけが観察されたことから,本種は交尾において“右利き”である可能性が高い。また,このように交尾が左右いずれかの向きでしか為されない場合には交尾のチャンスが半減するため,この損失を補うように交尾器の形態にも左右性が速やかに進化することが予測されている。
本研究では,コバネイナゴにみられる右向きでの交尾の普遍的を示すために追加の野外調査を行ったとともに,交尾の向きが雌雄のどのような行動によって決まるのかを実験室内で撮影した動画の分析を通じて検討した。さらに,本種の雄の交尾器に左右性が生じているかどうかを形態分析によって検討した。
山形県内の新たな2集団および前回と同じ天童市の集団,兵庫県の1集団それぞれについて,野外で生じている交尾の向きを30ペア以上を対象に記録したところ,計148ペア全てが右向きで交尾していた。実験条件下での交尾では,雌による拒否行動には一貫した左右性が無かった一方で,雄によるアプローチは例外なく右側から生じていた。さらに,上記4集団の雄の上陰茎epiphallusを対象に行った形態分析では全ての集団について有意な左右性が検出された。交尾行動と生殖器にみられる左右性はバッタ類では恐らく世界初の発見である。しかし,現時点では生殖器で検出された左右性が右向きでの交尾に伴って進化したとは断定できない。その理由を考察する。