| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-313 (Poster presentation)

Bayesianスカウターで戦闘力を測定する

*長谷川克, 沓掛展之(総研大・先導研)

個体の戦闘力––より厳密にはRHP (Resource holding potential)––は闘争行動における中心概念であり、資源の獲得や保持を左右するとされる。これまで数多くの研究がこのRHPに着目し、どのような個体が高いRHPをもつのか、野外個体群および室内実験個体群を用いて調べてきた。しかしながら、これまでの実証研究は勝敗によって個体のRHPの大小関係を推定するにとどまっていた。このため、対戦不可能な個体間ではRHPの比較(e.g., 調査年度間での比較)ができなかった。また、調査個体数が増えるほど対戦の組み合わせが増えるため、個体群全体でのRHPの序列(及び分布)を調べることは現実には難しく、RHPの個体差やその形成要因、経年変化、および他の形質との関連についてもよくわからなかった。本研究では、ベイズ統計を用いることで、間隔尺度水準でRHPを測定できることを紹介する。1例として20年間のチンパンジーの野外調査データへの適用例を示す。この例では、対戦歴のない個体間でRHPが比較できただけでなく、個体のRHPの増減がなぜ生じたのかも解明できた。別の例として実験室内でのメキシコマシコのRHP測定を挙げる。従来の方法では50個体のRHP序列を調べるために1225回の対戦が必要だったが、ベイズ統計では50回の対戦で充分であることが示された。さらにこの例ではRHPの個体差と外部形態との関連も明示された。ベイズ統計は個体の戦闘力を測定できる「スカウター」であり、今後RHP研究を飛躍的に促進させるだろう。


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