| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-314 (Poster presentation)
一般的に、雌よりも雄が顕著な性的形質を持つ動物が多いが、雄だけでなく雌も目立つ性的形質を示す種も少なくない。比較的解釈が容易な雄の性的形質と比べ、雌の性的形質の進化については不明な点が多く、性的二形の進化を説明する性淘汰理論の枠組みの変更も含め未だ論争中のテーマである。トウヨシノボリは雄がふ化まで卵保護を行う淡水性のハゼ科魚類である。本種では性的二形がみられ、雄は雌よりも体サイズが大きく、背鰭が伸長する。一方、産卵可能な雌は腹部に青い婚姻色を示す。光色環境を操作した発表者らの先行研究により、雌の婚姻色は、雄を誘引することで潜在的な配偶候補者との遭遇機会を高めることを通じて、十分な配偶者選択を行うために進化した可能性が示唆されている。いくつかの魚類と同様に、本種の雌の婚姻色の発現の程度は短時間の内に変化するが、もし雌の婚姻色が配偶者選択のために雄を誘引する機能を持つのであれば、雌はより好みの雄を誘引するために雄の質に応じて婚姻色を変化させる可能性がある。この予測を検証するため、水槽内において雌に雄1個体を呈示し、その翌日に別の雄1個体を見せ、それぞれの雄に対する雌の婚姻色の変化を調べる実験系において、雌の婚姻色の発現の程度と雄の形質との関連性について検討した。その結果、雌は背鰭が長く、求愛頻度の高い雄により青色の婚姻色を示すことがわかった。背鰭については不明であるが、もし雄の求愛頻度が高い雄ほど生理的コンディションが良く卵保護能力が高いのであれば、雌はより保護能力の高い雄を選び出すために、求愛頻度の高い雄に対して婚姻色の発現の程度を強めるのかもしれない。本研究は、雌の婚姻色がより優れた質を持つ雄を選び出すという配偶者選択の文脈において進化した可能性を支持する。