| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-317 (Poster presentation)
スズメPasser montanusは他のスズメ目鳥類と比べて一腹卵の孵化率が低いことが知られている。発表者らは先行研究において、(1) 未孵化卵は雄胚が胚発生早期に死亡していること、 (2) 繁殖密度が高いほど雄胚が死亡し、巣立ち雛性比が雌偏りになることを示した。そこで発表者らは、営巣場所をめぐる競争が強いほど胚発生率が低下すると予想し行動観察を行った。また、発表者らはストレスレベルの指標となるコルチコステロン(Cort)が胚発生に負の効果を持つと考え、ホルモンレベルと胚発生の関係についても解析を行った。
野外調査は秋田県大潟村の防風林で行った。産卵期に巣箱周辺をビデオ撮影し、個体の行動を解析した。その結果、親鳥以外の個体が巣箱への訪問頻度が高いほど、雌親が巣箱をより防衛し、一腹卵の胚発生率が低下した。親鳥以外の個体は樹洞営巣性鳥類のコムクドリSturnus philippensisやアリスイJinx torquilla、スズメである。過去5年間の調査から、樹洞営巣性鳥類が多く飛来した年ほどスズメが利用している巣箱が乗っ取られやすく、スズメの一腹卵の胚発生率が低かった。
胚が死亡する生理的要因を調べるため、孵化直後の雛から糞を採取してEIA法によりCortレベルを分析した。その結果、一腹卵の胚発生率が低いほど雛は高いCortレベルを示した。先行研究では雌親のホルモンレベルは卵黄および雛のホルモンレベルと正に相関することが報告されている。そのため、この結果はCortレベルが高い雌親ほど一腹卵の胚発生率が低いことを示唆している。
これらの結果から、繁殖場所における巣箱競争強度が高い(ストレス要因)ほど、スズメの雌親のCortレベルが上昇すること、そして高Cortレベルと雄胚の早期死亡との関連が示唆された。