| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-320 (Poster presentation)
資源を巡るオス同士の闘争において、体や武器形質の大きさは、個体の闘争能力を反映していると考えられている。そのため、オスは闘争中に、これらの形質を自身と相手の闘争能力を評価するために用いると期待されてきた。しかし、闘争中の評価に用いる形質が、最終的な勝敗に影響しない種も知られている。そこで本研究では、ユビナガホンヤドカリ Pagurus minutus を対象に、挑戦者が闘争を仕掛ける際に用いる評価指標(体長、あるいは本属の武器形質である大鋏脚長)と評価戦術(自己評価、あるいは相対評価)が、闘争開始後の最終的な勝敗を予測できるか検証した。
本研究の結果、挑戦者は自身の大鋏脚長が闘争相手よりも小さい場合に、闘争を仕掛ける頻度が低下した。このことは、挑戦者が闘争を仕掛けるか否かの意思決定する際に、大鋏脚長に基づく相対評価を行う可能性を示唆している。闘争が開始された場合は、挑戦者の大鋏脚長が闘争相手よりも大きくなるほど、挑戦者が相手からメスを奪う頻度が高まり、また奪うまでの時間も短くなった。さらに、闘争相手よりも大鋏脚長の長いオスが闘争に勝ちやすかった。一方、挑戦者の中には奪ったメスのガードをやめた個体も見受けられたため、闘争の継続時間については検討できなかったが、闘争が開始された後も相対的な大鋏脚長が重要だったことは、この局面においても、本種のオスが相対評価を用いる可能性を示唆している。合わせて考えると、これらの結果は、ユビナガホンヤドカリのオスがオス間闘争中に大鋏脚長に基づく相対評価を行っていること、大鋏脚長が本種の闘争能力を反映した正直な指標であることを示唆している。