| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-325 (Poster presentation)
モグラ類の種間競合は他の動物にはあまり見られないような激しいものになっている。2種のモグラの分布境界付近では, 体の大きさに著しい種差が生じており,トンネルの太さの違いとして容易に検出される。そこで,アズマモグラMogera imaizumii 5頭を個別に飼育し,平行に並び太さの異なる金網製人工トンネル3本(直径3.5,4.0,5.0 cm)を1個体当たり114〜141時間自由に使用させ,使用回数の違いを比較した。分析にはR(Version i386 2. 15. 1)による一般化線形混合モデルを用いた。
その結果,トンネル使用回数は直径4.0 cmのトンネル(75.3±17.5回)に対して,直径5.0 cmのトンネルにおいて有意に少なく(64.5±15.1回,P=0.000),直径3.5 cmにおいても少なかったが有意な差ではなかった(67.8±19.0,P=0.088)。今回用いた個体の捕獲地でのトンネルの直径は約4.0 cmであり,それに近いトンネルが最もよく使われた。より太いトンネルは避けられる傾向がより細いトンネルよりも顕著で,これはモグラの趨触性(体が物に触れるのを好む習性)などによると考えられる。モグラの種間競合では一般に大型種が有利になることが多いが,分布境界で大型種が小型種の分布域に侵入して太いトンネルを掘ると,小型種は利用しにくくなることが予想される。今後他の種で同様の実験を行うことが必要である。
また,3本のトンネルの配置は定期的に交換したが,中央のトンネルは両側の2本よりも有意に使用回数が少なかった(いずれもP=0.000)。これにはモグラ類が行動圏全体を定期的に見回る習性が関係していると考えられる。