| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-326 (Poster presentation)
動物の空間利用パターンを決める最も大きな要因は食物や安全性である。しかし、個体間の社会関係も空間利用を決める大きな要因となる。哺乳類では、メスの多くが出生地に留まる傾向があり、この結果、遺伝的に近縁なメス同士が空間的にも近くに存在する血縁構造が形成される。従って、食物等の環境要因に加え、個体間の血縁関係等の社会的要因も考慮して空間利用を把握する必要がある。しかし、単独性で、かつ高い移動能力を持った大型哺乳類での研究は少ない。
本研究では、ツキノワグマを対象に、個体間の行動圏の重複率に与える血縁と食物利用可能性の両者の影響を検証した。足尾日光山地において、13頭のメスのツキノワグマUrsus thibetanusにGPS首輪を装着し、マイクロサテライトDNAを用いて血縁関係を判定した。季節行動圏(95%LoCoH)の個体間重複率を応答変数とし、血縁関係(母娘・祖母孫娘・姉妹のペア=血縁個体/左記以外のペア=非血縁個体)と食物利用可能性(ミズナラ堅果の結実量を指標)を説明変数としたベータ回帰モデルを構築して検証した。
この結果、血縁個体間の重複率が非血縁個体間よりも大きいこと、こうした血縁構造は不作年の秋に弱まるものの、全体として消失することはないことが明らかになった。移動能力の高いツキノワグマは、特に秋の食物資源の変動に応じて行動し、集団内の血縁構造を変化させる。しかし、春から初夏の食物資源の獲得や子育てにとって、慣れ親しんだ土地に留まるメリットが大きく、この結果、メスの定住性や血縁構造が維持されていると考えられた。