| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-381 (Poster presentation)

生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性

奥田昇(地球研)

人類は、栄養元素からエネルギーや肥料を生み出す科学技術によって、物質的豊かさと快適な暮らしを手に入れた。一方、栄養元素の過剰消費によって、地圏-生命圏の「栄養バランスの不均衡」が顕在化し、社会の持続的発展の限界が露呈された。栄養バランスの不均衡は、生物多様性の消失と生態系の機能不全を引き起こし、我々の健全で文化的な生活の基盤を支える生態系サービスの損失を招くと危惧される。栄養バランスの不均衡を解消し、流域圏社会-生態システムの健全性を向上するには、流域社会の多様な主体との協働の下、自然との共生に基づく循環型社会を構築することが不可欠である。

現在、演者は、総合地球環境学研究所において「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性」と題する研究プロジェクトを主宰する。本プロジェクトは、栄養バランスの不均衡が生み出す地球環境問題と地域の諸問題をともに解決する流域ガバナンスの手法を提案する。人間活動による栄養循環の攪乱と生物多様性の消失を引き起こすメカニズムを解明する自然科学、および、地域の生物多様性がもたらす文化的・公共的価値を認識・共有することにより住民主導の保全活動を促す社会科学、これら双方のアプローチを融合する。さらに、超学際科学(Trans-disciplinary science)の理念に基づいて、社会と科学の共創による持続可能な循環型社会の構築に資する環境知を醸成する。生物多様性が駆動する栄養循環を「見える化」する科学知とその賢い利用を促す地域知との交流を通して、「生息地のつながり」、「人と人のつながり」、「人と自然のつながり」を再生し、流域社会の幸せ(Human well-being)と流域生態系の栄養循環を相互依存的に高める順応的流域ガバナンスを実践する。


日本生態学会