| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-396 (Poster presentation)
気候変動の影響を評価し対策を立てることは、現在の国際社会における重要な課題である。とくに、人間社会は生態系と結びついているため、気候変動への対策を立てるためには、社会—生態システムとして影響を評価することが重要である。そこで、本研究では文献レビューを通じて、干ばつ頻度の増加が懸念されているモンゴルの放牧草原を対象に、気候変動が社会—生態システムへ与える影響について整理した。
遊牧民は、干ばつ時にその影響を緩和するため、通常より高い頻度、長距離の移動(Otor)を実施する。一方、モンゴルには緯度に沿った降水量の変動性があり、異なる草原生態系および遊牧社会が成立している。 降水量が安定している北部地域は、植生量が豊富で安定しており、遊牧民の移動距離が短く、低頻度の傾向がある。降水量の変動性が高い南部地域は、植生量が少なく変動が大きいため、遊牧民の移動距離が長く高頻度の傾向がある。このため、南部地域は資源へのアクセス性が高く、Otorを実施しやすいことが予想される。一方で、北部地域ではアクセス性が高くなく、干ばつ頻度が増加した場合には、Otorが難しくなることが予想される。さらに、 干ばつ時、南部の遊牧民は、北部に設定された非常用地へ移動したり、北部から干し草を仕入れることが報告されている。つまり、北部の植生は、南部の遊牧民にとって、災害時に頼れる資源の一つといえる。このため、干ばつ頻度の増加により北部の植生量が減少してしまった場合、その影響は広域に渡ることが考えられる。
本研究では、モンゴルの社会—生態システムに着目することで、北部地域の遊牧社会は干ばつ頻度の増加に対し脆弱である可能性と、その影響は広域的であると予想されることを示した。