| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-398 (Poster presentation)
沿岸域は赤潮・貧酸素水塊に代表される人為的な富栄養化状態を長年強いられてきた。近年はその反省から栄養塩等の排出規制などが実施され、世界各地で水質が回復しつつあると報告されている。水質改善に伴う透明度の回復は底生大型植物の回復を促し、特に日本やヨーロッパ沿岸、北米各地で生物多様性や生態系サービスに改善が見られるようになった。その一方、水質改善が“貧栄養化”と呼ばれる新たな環境問題を生み出すと危惧されるようにもなっている。特に沿岸域の主要な生態系サービスである漁業生産は、植物プランクトンが優占する富栄養化状態に合わせて漁業形態を適応させていたため、水質改善とともに生産性が減少したとの報告もある。沿岸域において生物多様性・生態系機能の保全や生態系サービス利用の持続性を確保するために、現在はスケール重層的な管理が行われることが多い。地域レベルでは陸域からの栄養塩排出規制など、海洋政策に直結した法的措置が取られることに加え、局所的なスケールでは現地のステークホルダー、特に漁業者とその操業に関連した法令がその役割を担っている。これらの成果である水質改善は、上述のように地域スケールのステークホルダーに福利を享受する一方、局所的なステークホルダーにとっては十分な満足が得られない状態にあると言える。このような背景の下、生物多様性の保全と生態系サービスの持続的利用の両立を達成するためには、環境改善とともに局所的なステークホルダーの福利を向上し、生態系管理へのモチベーションを維持していくことが重要である。本発表では、その実現に向けた様々なアプローチのうち、生態学的アクションと社会経済的分析との統合的アプローチを用いた沿岸域統合管理に関する事例を紹介する。