| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-399 (Poster presentation)

深海生態系を評価する指標の選択と解析手法について

*山本啓之,山北剛久,内舩芳江,中嶋亮太,藤倉克則 (海洋研究開発機構)

深海環境には、表層からの光合成産物の供給に加えて、熱水噴出、メタン湧水、湧昇流等による生物生産が支える生態系が存在し、多様かつ豊かな生物群集を維持している。深海は人間社会から遠い存在と受け取られているが、顕在化しているゴミの投棄、漁業活動、資源開発などの影響は表層生態系に及ぶ可能性がある。本報告では、調査・観測データが少ない深海生態系について重要度評価や環境影響評価をするための指標選択と解析手法の研究結果を紹介する。

海洋生態系の重要度を評価する指標としてはEBSA(ecologically and biologically significant area)の基準が普及しているが、深海については技術上の制約と環境条件を考慮した評価指標の選択が必要である。例えば、熱水域やメタン湧水域などの底生化学合成生物群集が生息する環境では、群集自体の稀少性、種の多様性とecosystem engineerとなる生物種に着目した生産性と生息地の創出で的確な評価ができると考えられる。深海底の主な一次生産である化学合成は原核生物に依存するが、原核生物と共生した底生動物が見かけ上の生産者機能を果たしている。深海の化学合成の生産力を直接計測することは容易ではないが、ecosystem engineerを指標にすることで生産力の評価が可能になった。

深海底での生物分布データは、点もしくは測線での観察結果である。音響計測による海底地形と底質および海水柱の物理化学条件などの環境データを補完することで広域での生物の分布推定ができると考えられた。深海環境の評価では、二酸化炭素の貯蔵、熱塩循環、栄養塩の供給源などの機能、深海生物では冷水性サンゴ類や化学合成生態系の重要度などの評価研究が進んでいる。生態系サービスでの評価では、開発と保全の影響を換算する手法の検証が始められている。


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