| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-401 (Poster presentation)
道東ではエゾシカ個体数の増加による林床植生の衰退が報告されており、希少な植物群落の保全が求められている。釧路地方中央部にあたる標茶では稚樹の食害や樹皮はぎがいくらかあるものの、林床植生に目立った食害は見られない。しかし北海道の森林でしばしば見られるように林床にはササが優占し、下層植生の多様性は低く、エゾシカが植生に影響を与えているかどうかは不明瞭である。そこで本研究では、ミズナラ林においてシカ排除柵設置とササ刈り取りを行い、エゾシカの排除、ササの除去、およびこれらの交互作用が林床植生の多様性・種構成に及ぼす影響を調べた。
ササ除去区では、コドラートあたり種数、多様度指数は高くなっており、シカ嗜好性植物も出現していた。一方、エゾシカの排除および交互作用の効果は認められず、食痕も確認されなかった。これらのことから、標茶ではエゾシカの食害よりもササの繁茂の方が他の林床植生に対する影響が大きいと考えられた。標茶と林床植生に対する食害が報告されている地域(知床、白糠)について周囲半径10km圏内の植生を比較したところ、知床や白糠では森林が大部分を占めたのに対し、標茶の大部分は牧草地であった。周辺植生のことを考慮すると、標茶で林床植生の食害が少なかったのは、周囲に牧草地が多いことが影響しているのかもしれない。すなわち、農業被害の問題はあるものの、周辺に牧草地が多い地域では、牧草地が森林林床植生のシカ食害を軽減している可能性がある。