| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-413 (Poster presentation)
環境の変化に対する生物の反応を利用した環境評価(生物指標)は低コストで広範囲の地域を評価できるという特徴がある。近年は大気汚染が深刻になっていることから、生物指標の中でも大気環境に敏感なコケ植物を利用した大気環境の評価の有用性が高まっており、地域住民による大気環境モニタリングへの活用も期待されている。こうした評価の実用性を高めるためには、大気環境に対して(1)コケはどのように反応し、(2)どの程度の範囲の環境を反映しているのか、明らかにしなければならない。しかし、後者についてはこれまでほとんど言及されることがなかった。そこで、本研究では、大気の「清浄度」「窒素汚染の深刻さ」「窒素汚染源」「都市化に伴う乾燥化」の4つの要因に着目し、この問題を検討した。まず、コケの種組成やコケに含まれる窒素分/窒素安定同位体比を用いて、各要因に対するコケの指標価を算出した。次にこの指標価と調査地の周辺環境(土地利用タイプなど)とを一般化線形モデルで結びつけ、各モデルの説明力に基づいてコケ指標価の有効範囲について検討した。各モデルを比較した結果、指標価の有効範囲は各要因間で異なることが明らかになった。「窒素汚染源」については調査地点から半径100mの土地利用タイプを変数としたときに最もモデルの説明力が高く、「清浄度」「窒素汚染の深刻さ」は半径200m、「都市化に伴う燥化」は半径2000mのときにそれぞれモデルの説明力が高くなる傾向がみられた。これらの相違は各要因に対するコケの反応性によって説明された。以上の成果は、コケを利用した大気環境評価の有効性を考慮する際の一つの基準となり、実践的な環境評価の提案に貢献すると期待される。