| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-478 (Poster presentation)
企業による生物多様性保全は広がりつつあるが、方針策定で止まっていたり、活動が企業敷地内に限られたりする等、地域の生物多様性保全への貢献という面では改善の余地が大きい。本発表では横浜ゴム株式会社を事例に、企業が行う生物多様性モニタリングと保全活動の有効性および課題について検討する。
横浜ゴムは「生産活動が生態系サービスに依存していることを認識し、事業活動を通じて生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用に取り組む」ことを基本方針とし、現場での実践の際、下記のポイントを重視している。①生産活動に大量に水を使用するため、取水・排水先の河川に注目し、モニタリングと保全活動を行う;②モニタリング・保全活動・情報公開のサイクルを基本とする;③社員が主体的・自立的に活動し、全員参加を目指す。
先行して活動を進めた三重工場では、排水先河川における水質・水量・メダカ等の水生生物調査の結果、水量確保と水質改善の両面で工場からの排水がメダカの生息環境を維持するために重要な役割を果たすことが示された。これを受け、生産休止期間も排水を継続することを決めるとともに、調査の継続、地域協働による保全活動、出前授業等へと活動が広がった。これらから、企業活動と地域の生物多様性とのつながりを認識し、保全活動を展開する上で、企業が実施する生物多様性の調査が強力なツールとなり得ることが示唆された。
また、効果的な生物多様性保全活動を継続する課題としては、他工場での事例も踏まえて、①企業活動と地域の生物多様性との関わりの明確化と社内浸透;②NPOや大学等の協力による専門性の担保;③情報公開による外部評価;④プロパーの工場スタッフによる自立型の活動体制、が挙げられた。