| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T04-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
本講演では,2011年東北地方太平洋沖地震津波に伴う沿岸環境変化に加え,東北地方太平洋岸における歴史・先史時代の地震・津波に関する研究をレビューし,沿岸生態系への影響の中長期的な予測に向けた今後の方向性について議論する.
2011年の地震では,三陸地方を中心として大規模な地盤沈下が観測された.一方,津波により陸上から海域までの幅広い範囲で土砂の侵食・再堆積が発生した.特に海浜や砂丘,浅海域では底質や地形が大きく変化し,元の状態にはいまだ回復していない場所も多く存在する(例えば,有働ら,2013;Goto et al., 2014).地震・津波に伴う底質や地盤・地形変化とその後の回復過程は,沿岸生態系への影響と密接に関係していると考えられ,数年の時間スケールの変化を把握するためにも観測を継続する必要がある.
一方,巨大地震・津波後の数十年から百年を超える中長期的な時間スケールで生態系がどのように応答するのかを予測するための一つのアプローチとして,過去の事例を参考にする方法が考えられる.東北地方太平洋岸は,数千年前の先史時代にまで遡り津波履歴や規模に関する研究が進められている(例えば,Sawai et al., 2012; Ishimura and Miyauchi, 2015).さらに,津波堆積物上下の土壌層中の珪藻群集解析等の手法を用いて地震性地殻変動やその後の回復過程を読み取ることができる場合があることが報告されている(例えば,Sawai et al., 2012).同様に,花粉や化学組成等の各種の生態・環境指標と高精度年代測定結果を活用することで,過去の地震・津波後の中長期的な生態・環境変化を推定できる可能性がある.こうした点に注目した研究例はまだ少なく,地質学や地形学,考古学的研究に生態学的知見を加えた学際的な研究の推進が望まれる.