| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T04-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物個体群への攪乱のインパクトの大きさは、攪乱イベントの種類や物理的な強度、攪乱を受けた種によって異なる。しかし、これらの関係が稀で大規模な攪乱イベントで定量的に明らかにされた例はない。なぜなら個体群の変動性が異なる種間で攪乱のインパクトを比較する方法や、異なる種類の撹乱イベント間で攪乱の強度を比較する方法が存在しないためである。本研究ではこれら2つの問題を解決する方法を提案し、東北地方太平洋沖地震の岩礁潮間帯固着生物群集への影響を評価した。まず、個体群の変動性が異なる固着生物5種の間で今回の地震に伴う津波のインパクトを比較した結果、津波によるインパクトが顕著だったのは5種中1種であった。次に、様々な攪乱イベントでの攪乱強度-インパクト関係の中での今回の津波の位置づけを評価した。その結果、津波は攪乱強度が著しく高いのに対し、そのインパクトは比較的小さいことが明らかになった。
今回の地震は沈降を引き起こしたため固着生物の帯状分布は数十センチ下方に移動した。そこで地震後の各種の帯状分布の回復過程を明らかにするために、固着生物5種について地震後の帯状分布の経時変化を求め、地震前の帯状分布と比較した。その結果、一部の種は地震後に顕著に減少するどころか、帯状分布の広がりやアバンダンスが増加していた。また、種ごとにアバンダンスの増減やその時期、回復までの時間が異なることが明らかになった。
以上から、今回の地震の岩礁潮間帯の固着生物への影響は、人間における「震災」とは大きく様相が異なることが示唆された。その影響は津波ではなく主に沈降によって引き起こされ、地震直後ではなく数年後に顕れることがあった。さらに、一部の種は地震によって顕著なダメージを被らず、むしろ地震後に大きく増加していた。