| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T04-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物群集の動態は、生起頻度や空間範囲が異なる様々な撹乱に複合的に影響されている。岩礁潮間帯では波浪によって生じた小規模な裸地(撹乱パッチ)における遷移が種多様性の維持に重要な役割を果たすが、この遷移はより広範囲で作用する巨大地震によって変化するかもしれない。第一に、メタ群集スケールで多くの種が減少すると考えられることから、撹乱パッチ内でも群集の種組成は地震前後で変化し(予測①、α多様性は地震前より低くなるだろう(予測②)。第二に、地震直後はメタ群集スケールで遷移初期種の割合が上昇すると考えられるため、撹乱パッチでも遷移初期種の割合が増加し(予測③)、遷移の速度(種組成の時間変化量)は遅くなるだろう(予測④)。第三に、地震によって無機環境や種プールの組成の空間変異性も増大すると考えられることから、撹乱パッチでも種組成の空間変異性が大きくなるだろう(予測⑤。そこで三陸沿岸で東北地方太平洋沖地震前後に撹乱パッチを模倣した人工裸地を作成し、以上の予測を検証した。
人工裸地の種組成は地震前後で有意に異なり、地震後にはα多様性は上昇した。また群集構造の空間変異性は地震後に大きくなった。これらの結果は上述の予測①と⑤と一致する。一方、予測②とは異なり、α多様性は地震後に上昇したが、これは地震によりメタ群集スケールで大きく個体群サイズが縮小したのはごく一部の種に限られていたことで説明できるかもしれない。また、予測③と④に反して、初期種の割合が増加せず遷移の速度も遅くならなかった。
以上の結果は東北地方太平洋沖地震は固着生物のメタ群集の組成とその空間変異性を変化させることで、局所攪乱後の遷移における種組成、α及びβ多様性を変化させたことを示唆している。