| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T05-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

日本の市民科学の課題から見える“あるべき市民科学”とは?

小堀洋美(東京都市大学)

市民科学は多くの国で長い歴史をもち、その定義も多様であった。しかし、最近では、市民科学とは「市民が科学研究のプロセスに関わること」との定義が国 際的にも定着し、その多くは研究者や研究機関との協働や指導の下で行われている(Oxford英語辞典、2014)。市民科学プロジェクトの多くは生物多 様性に関するプロジェクトであるため、生態学者が、市民の主体性を活かした優れた市民科学プロジェクトを実践する上で果たす役割は大きい。また、市民科学 は行政や研究者による限定的または厳密なデータを補完する広域的・長期的なデータの収集を可能とし、その結果、急速な地球規模の環境変化や生物多様性の損 失の把握やその仮説の検証、マクロ生態学、地域生態学、景観生態学などの生態学分野への貢献も著しい。

しかし、日本では、地域に根差した優れた市民調査プロジェクトは多数存在するが、解決すべき課題も抱えている。広域的な課題としては、1)地域レベルの市 民科学データを広域的に統合化する仕組みが確立されておらず、その成果が有効に県や国レベルでの行政施策や保全策に活かされていない;2)欧米で急速な進 展をもたらした情報ツールを用いた市民によるビッグデータの集積と共有化、市民教育を可能にする市民科学の開発や実践事例が極めて少ない;3)生態学的と 社会学的なアプローチを統合した市民科学は、進展していない;4)国際連携による国際的な市民科学プロジェクトの事例は極めて少ない、などが挙げられる。 プロジェクトレベルでは、1)プロジェクトの企画段階で、プロジェクトの目的や成果が明確にされてない;2)参加者の高齢化と若者の減少;3)データ解析 が不十分;4)資金不足、などが挙げられる。本企画集会の演者の優れた実践や提案を通じて、日本のあるべき市民科学について検討する。


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