| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T05-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
市民科学としての「生物多様性モニタリング」の運用では、モニタリング対象に精通する自然史・生態学の研究者のほか、データ収集からデータ統合・評価にいたるプロセスを透明化し、情報共有するためのツールとして役立つソフトウェアの開発・改善を担う情報学(データ工学)の研究者、さらには市民のニーズを把握し参加者へのきめ細かいサービスを行う実務者の3者の協働が欠かせない。私の研究室(保全生態学研究室)では、東京大学生産技術研究所喜連川研究室と協力して、「生物多様性モニタリング」プログラムを実践的に研究してきた。これまで行政や環境意識の高い生協と協働してプロトタイプとしての「プログラム」を実践的に研究してきたが、ここでは、特に成功していると思われる取り組みとして、東京チョウ類モニタリング(http://butterfly.tkl.iis.u-tokyo.ac.jp/)を紹介する。このプログラムは、東京に多くの組合員をもつ生協「パルシステム東京」、喜連川研究室、保全生態学研究室の協働により2009年から実施されている。その特徴は、蝶の同定に自信の無い初心者でも、写真を添付して報告することで対象生物の正しい名前を知ることができる点である。調査報告は、インターネット上のデータアップロードツール「個人ページ」に入力することで行う。入力されたデータは、保全生態学研究室のメンバーが画像と照らし合わせてチェックし、種名に間違いがあれば修正してデータベースにデータ登録する。修正は個人別のページに反映され、調査者は修正されたデータを確認できる。専門家のチェックを経た「品質管理済みのデータ」は、研究者を含めて誰もが利用可能なデータベースとしてインターネットで公表される。参加する市民にとってのこのプログラムの意義は、参加者の写真とデータを用いて3者で作成した東京のチョウの「ネーチャーガイド」から窺い知ることができるだろう。