| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T09-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
西日本に生息するツキノワグマ(Ursus thibetanus)は、1990年後半までに個体数の減少や生息地域の縮小など絶滅の危機に瀕した。この時点では、十分な科学的データは得られていなかったが、2000年代に滋賀県以西の各府県は、狩猟禁止とし保護政策の方針へと舵をきった。兵庫県ではいち早く1996年に狩猟禁止とし、2003年には特定計画を策定、積極的な保護の取り組みを開始した。しかし保護政策が適切かどうかを検証するための科学的データは収集されていなかったが、特定計画によって被害情報は市町から県へと情報共有されるようになった。そこで、被害現場における現場診断を行いながら生息情報を収集することから開始した。結果的には、目撃情報、錯誤捕獲や有害捕獲時の標識装着や学習放獣後の行動追跡、再捕獲個体の情報、捕殺個体の分析など収集可能なデータをあらゆる視点から集めることが可能となった。これらの情報は、行政システムと連動して収集する体制として構築した。さらに2010年には、想定以上の大量出没が発生し、再捕獲や捕殺個体が急増したため、繁殖経歴や年齢構成、生存率、栄養状態等個体群の健全性を直接的に判断できる情報が蓄積され、個体群の状況を把握することが可能となった。そして、高い増加率を維持している複数の根拠が得られ、個体数の回復傾向が明らかとなった。現在では、単に捕殺数を最小限にする保護政策から有害個体は捕殺を行うなど個体数管理の政策へ転換している。さらに個体数は増加傾向にあることから、個体群は絶滅の危機から脱したと判断され、次には、社会的に許容可能な範囲での個体数維持を目指し政策転換を図る予定である。