| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T10-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
福島第一原発事故由来の放射性セシウム(rCs)の,福島県内における落葉広葉樹林およびスギ人工林で土壌中137Csの下方移動を深度別土壌調査とライシメータを用いて調査した。
本研究では,福島県内の落葉広葉樹林において,2013年8月から2015年8月にかけて,リター,土壌表層(0~5 cm),および土壌下層(5~10 cm)の各層における137Cs濃度を測定し,rCsの鉛直方向の移動を明らかにした。また,2015年に,落葉広葉樹林およびスギ人工林において,リター層から土壌表層及び土壌表層から下層への溶存態rCsの移動を,ライシメータを用いて調査した。
2013年から2014年にかけての深度別土壌調査の結果,リター層と土壌表層で137Cs濃度が大きく変化した。2013年8月には,総137Cs濃度(リター層から土壌10㎝)の約6割がリター層に,3割が土壌表層に存在したが,その一年後にはリター層に約1割,土壌表層に7割と変化した。一方,2014年以降は,両層で137Cs濃度は大きく変化しなかった。また土壌下層では,調査期間を通じて,リター層や土壌表層のような137Cs濃度の大きな変化は確認できなかった。このことから,当該研究地のrCsは,2014年までにその大部分がリター層から土壌表層へ移動したと考えられ,チェルノブイリや福島の多研究地で行われた先行研究と同様の結果が得られた。
さらに,2015年のライシメータ調査から,リター層に含まれるrCsの数十%が溶存態となって土壌へ移動するのに対し,土壌深さ5㎝からは,リター層と土壌表層に含まれるrCsの1%以下しか土壌下層へ移動していなかった。本研究から,林床のrCsの鉛直方向の移動性は,事故後3年以内に急速に減少するが,それ以降も微量のrCsが溶存態で移動し続けることが示唆された。