| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T12-6 (Lecture in Symposium/Workshop)

ネオニコチノイド農薬規制の今後

五箇公一(国立環境研)

ネオニコチノイド農薬は、卓越した殺虫活性と高い安全性を併せ持つ優れた薬剤として、1990年代以降、国内外で広く使用されてきた。国が定める農薬の生態リスク評価「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準」においても、これらの農薬の多くは、従来の殺虫剤と比較して安全性が極めて高いと判定されてきた。

しかし、実際には、野外においてネオニコチノイド農薬の使用量増加がトンボ類減少の原因として疑われるようになり、メソコズム試験等でその生態影響が検証されるに至り、室内レベルの毒性試験データに基づく従来のリスク評価法では、ネオニコチノイド農薬のような選択毒性の高い薬剤の真の生態リスクは検出できないことが問題点として指摘されるようになった。

国際的にもネオニコチノイド農薬がミツバチの減少を招いているとして、規制を強化する動きが増えて、特にヨーロッパでは、EUが2013年よりネオニコチノイド農薬4剤を3年間使用停止することを決定した。

これらの国際的な動向に準じて、日本においても規制強化が議論されているが、これらの剤を規制することは農業の生産性を著しく低下させるおそれがあること、そして、十分な科学的データが蓄積されていないことを理由に日本政府は本格的な規制に踏み出せないでいる。

先に記したEUでの規制もすでに加盟国間で足並みが乱れ始めており、IPBESの花粉媒介アセスメントにおいても、ネオニコチノイド農薬のハナバチに対する生態影響は、十分な科学的支持を得るものではない、との記述がなされるなど、海外での規制の動きも混迷を呈している。

一方で、環境省は国内の農薬による生態リスク評価手法の高度化を検討しており、ミジンコ以外の試験動物の追加や、メソコズム試験の普及等を推進している。また、今後、野外のトンボ類やハチ類への影響実態調査も進めて行く方針である。


日本生態学会