| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T13-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
保残伐は、生物多様性の保全のために、森林の光合成産物の一部を意図的に林内に残す作業であり、木材の生産量が低下することは必然の成り行きである。そのため、保残伐施業の選択が、木材生産関係者を含めた社会的な合意を得るためには、減少する収益の補償について検討が必要であり、その基礎として、生産量の低下レベルの予測が不可欠である。日本においては、しかし、これまで、保残伐の実施例は限られている。富山県の60年生カラマツ林(ミズナラを中心とする残存広葉樹が18本/ha散在)の例では、残存木から近傍の範囲(半径10m以内)におけるカラマツの減少は胸高断面積比でおよそ40-60%であった(Yoshida et al. 2005)。この近傍範囲では、一方、多くの高木生広葉樹が定着しており、林冠層の種多様度が高かった。このケースでは、植栽の範囲は、残存木からある程度離れた箇所に限定するほうが合理的であったと考えられる。このようなパターンは、もちろん、施業シナリオ(残存のレベルや配置、樹種の組み合わせ)に依存する。保残伐がすでに実践されている北米や北欧では、残存の効果を組み込んだ収穫量・作業コスト予測が広く行われているが、そこでは、保残伐が、本質的に多様なシナリオを内包する「不均質性を導入する施業」であることから、それらに対応しうる柔軟性のあるアプローチ――森林の成長に関しては空間明示的な個体ベースシミュレーションのような――が多く採られている。今後、日本においても、考えうる主要な施業シナリオごとに施業の実現可能性の評価が必要であるが、その際には、実証試験の実施とともに、各地で行われてきた非皆伐施業などの結果に基づいた事前の予測が求められる。