| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T13-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

保残伐は日本で有効か?複層林施業に学ぶ

*伊藤哲, 光田靖, 平田令子(宮大・農), 正木隆(森林総研・植生)

ドイツ林学に基礎を置く森林施業体系の中に、保残木作業がある。保残木作業は、保残種子木を残して伐採することで天然下種更新を促進する作業法であり、優良形質木の更新と大径材生産という利点を有する。天然下種更新の作業は他にもあり、大きくは側方からの種子供給に期待する皆伐型と上方からの種子供給に期待する非皆伐型に分けられ、保残木施業以外にも傘伐や特に更新期間を定めない択伐など、古くから様々な伐採形状とスケジュールが検討されてきた。これらはあくまで持続的な木材生産を目的としており、これらの体系が生まれた当時は生物多様性保全の概念はなかったが、基本的には側方または上方の生物遺産を天然更新および林地保育に活用しようとしたものである。

ただし、日本では上記のような天然更新施業はあまり根づかなかった。その理由はいくつか考えられるが、日本では多様な競合植生が繁茂し目的樹種の更新が困難であったことや、明治期に治山目的も含めた造林による育成林業が広まったことが、その大きな理由であろう。しかし1980年代からは、大面積皆伐後の単純同齢林造成の弊害に対して「複層林」に代表される非一斉林が森林施業の目標林型の一つとなり、間伐後に下層に樹木を植栽する二段林の造成が各地で試行された。これらも一種の生物遺産を活用した施業方法のひとつと解釈できる。しかし特に二段林はコスト面や保残木伐採時の下木の損傷などの問題が多く、現在ではほとんど実行されなくなっている。これに対して最近は、二段林のように林分レベルで構造を複雑化する「上下複層林」から、小面積伐採によって異なる林齢のモザイクを造成し景観レベルでの複雑さを創出する「水平複層林」(複相林)が指向されるようになってきた。本講演では、過去の複層林・複相林施業のレビューに基づいて、生物遺産を活用する施業方法の実行可能性を木材生産の持続性の面から検討する。


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