| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T15-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
精子の形態は,個体内,種内,種間の様々なレベルで多様化の著しい形質である.個体内の精子多型(異型精子)は鱗翅類を初めとする多くの系統で見られ,受精に寄与する精子と,受精以外の機能を担うparaspermに分化することが多い.また,複数の精子が集合精子(精子束)を形成して,遊泳力を高めるような生物もいる.このような精子形態の進化,多様化は,主に性淘汰(精子競争)の視点から研究が進められてきたが,利他性や協力といった社会性の進化にも示唆を与えうるものであり,進化生物学的に大変興味深い現象である.
オオオサムシ類(甲虫目,オサムシ科)の精子は精子束を形成するとともに,そのサイズは個体内で大きくばらつき,しばしば二型的(大精子束,小精子束)になる.精子束のサイズを種間で比較すると,大精子束のサイズは精子競争の指標である交尾片(雄交尾器の一部で精包置換に関わる)と交尾後ガード時間に関連するため,精子競争が精子束サイズの種間の多様化に関わっていることは明らかである.一方,小精子束のサイズにはそのような傾向が見られないため,精子束サイズの進化にはさらに別のしくみが関与している可能性がある.
精子束のサイズ二型が維持されるための要因の一つとして,機能の分化がある.精子束の機能は遊泳速度の向上や精子の保護などが考えられるが,これらの機能の間にサイズに依存したトレードオフが見いだせれば,二型的精子束の進化を説明できるかも知れない.また,精子束サイズの離散分布は,発生過程の制約による可能性もある.一つの精子束が一つの精原細胞に由来するのであれば,細胞分裂の回数に依存して精子の数は離散的になりうる.二型的精子束の進化を理解するには,精子競争下での精子束の機能の解明に加え,発生学的,遺伝学的側面からの研究も必要であろう.