| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T15-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

精子競争がもたらすクモハゼの特異な受精様式

竹垣毅(長崎大院水環)

精子競争は行動や形態、生活史に至るさまざまな形質の進化を形取る大きな力を持つ。魚類が動物の中で特に多様な代替繁殖戦術を示すのは、体外受精ゆえに可能となる産卵様式の多様性に加えて、そこに精子競争が密接に関係していることも大きな一因であろう。

繁殖機会を独占する雄の産卵に関与しようとする寄生的産卵行動「スニーキング戦術」は、魚類では最も一般的な代替繁殖戦術である。雄の受精成功は、(1)放精量や(2)精子形質に加えて、(3)放精時の雌との近接度や(4)産卵に同調した放精のタイミングに依存するとされている。クモハゼのスニーカー(SK)雄は、産卵巣を占有するネストホルダー(NH)雄と雌が巣穴内で行うペア産卵に侵入して放精する。注目すべき特徴は、NH雄が産卵巣の内壁表面に精子を含む粘性物質を塗り付けて、徐々に海水中に溶け出し活性化した精子で受精させるという特異な受精様式である。体外受精魚の放精は雌の産卵と同時かあるいは産卵直後に行われるが、NH雄の精子塗り付けは、雌の産卵開始前から行われており、SK雄よりも先に受精させるための対抗戦術と考えられている。この放精方法により、NH雄は巣内で数時間に亘って続く雌の産卵に近接・同調して放精する必要がなく、放精(巣内)とSK雄の防衛(巣外)を同時に両立可能にしている。本講演では、この特異な受精様式を基に防御を固めるNH雄に対して、SK雄がいかにして受精成功を高めているのか、またどのような形質を進化させているのかについて紹介する。


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