| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T17-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
生態系における窒素循環は生態系全体の機能的安定性と密接にリンクしている。窒素の形態変化の多くは微生物の代謝反応であるため、窒素循環のプロセスや速度は微生物群集の生理強度や規模に大きく左右されていると考えられる。そのため窒素循環のプロセスや速度の時空間的な変動の背後にあるメカニズムを説明するためには,個々の微生物の生理活性,群集内の個体群の種多様性,群集や個体群のサイズという微生物生態学的な変数を把握する必要があろう。本発表では森林土壌における微生物群集の時空間的変動がもたらす窒素動態について以下に示す研究例を提示し、森林における植物と微生物の窒素利用をめぐる相互作用について議論したい。
北方林において微生物群集の季節変動をモニタリングした結果、植物の休眠期(冬期)において土壌微生物は増殖期にあり、活発に窒素を代謝していること、植物の成長期の前(春期)において死滅することで可給態窒素を土壌に供給することが観察された。このことは必ずしも植物と微生物は窒素を巡って競合にあるわけではないことを示唆している。また、ひとつの森林内の斜面というローカルスケールから日本全国の森林という広域スケールにおいて微生物群集の空間変動をモニタリングした結果、土壌中のアンモニウム生成や硝酸生成の速度はそれを担う微生物の群集サイズにより説明がなされ、森林土壌における窒素動態が「土壌の理化学性-窒素循環微生物の群集サイズ-無機態窒素生成速度-植物の無機態窒素吸収」のスキームで説明できた。
このように森林生態系において土壌微生物と植物は窒素を介して密接に作用しており、近年の分子生態学的手法の発展によってその様態を明らかにできるようになりつつある。